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「小さなお店のはじめかたゼミ」卒業生のその後⑤

(2018年7月に取材しました) 

5月より第9期をスタートする「小さなお店のはじめかたゼミ」。 

これまでの受講生の中には、すでにお店を開業した方も何人かいらっしゃいます。 

そこでこのブログで、その方たちのお店にお邪魔して、開業までのこと、ゼミに参加した感想などを聞かせていただこうと思います。 

 

今回お話を伺うのは越湖さん。 

越湖さんは2017年5月〜7月の第4期ゼミに参加、その年の10月に自家焙煎のコーヒー専門店「TORANOKO  ROASTED COFFEE&SWEETS」を開業されました。 

「小さなお店のはじめかたゼミ」はこれまで40人以上の方に参加していただいていますが、男性の参加者は4人だけ。 

越湖さんは貴重な男性の参加者の一人です。 

 

「TORANOKO ROASTED COFFEE&SWEETS」は四谷駅、四谷三丁目駅から共に徒歩7分、大通りからは少し入った静かな路地にあります。 

 

 

 

 

福田:今日はよろしくお願いします。 

越湖さんというと、ゼミで「うちの奥さんのお菓子はめちゃくちゃ美味しい」と何度も言っていたことが印象的です。 

 

越湖:美味しいいものに対する熱量が高い人でして。 

僕がお店を開きたいと思ったのも、奥さんから影響を受けたからなんですよね。 

 

福田:え?そうなんですか。 

 

越湖:ただどんなお店を開くかは漠然としていて・・・

まずは料理人を目指したんですが、お仕事をするうちに「あれ?あんまり料理人としてのセンスはないな」って気がついちゃったんですよね(笑) 

で、これからどうしようかなって迷いながらも、お休みには気になるお店を巡って・・・みたいに過ごしていたんです。

そんな時、ある自家焙煎のコーヒー専門店で飲んだコーヒーがとても美味しくて。 

そこに常連として通ううちに、もっとコーヒーのことを勉強したいと思うようになって、そこのお店に弟子入りしました。 

 

福田:弟子制度があるお店だったんですね。 

 

越湖:僕以外にも何人かの方が通っていました。 

そこに週1回程通って、ドリップや焙煎を学びました。 

 

福田:どのくらい通われたのですか? 

 

越湖:7年間も通ってました(笑) 

 

福田:そこで学ぶうちに、自分でもお店をやってみたいと思うようになった? 

 

越湖:そうですね。僕はコーヒーだな、みたいな。 

 

福田:「お店をやりたい」から「お店をやってみよう」という風に具体的に動き出すのに、何かきっかけがあったのですか? 

 

越湖:奥さんの一喝です。 

 

福田:やっぱり奥さんなんだ(笑) 

 

越湖:そうなんです。 

「ずっと習ってるけどコーヒーで何がしたいの?趣味か仕事かはっきりさせなさい。」と言われてしまいました。 

当時、ちょっと中途半端な状態だったので。 

それで、コーヒーとのかかわり方を考えて、自家焙煎のコーヒー専門店がやりたいんだと腹が決まりました。 

 

福田:越湖さんは、本当に奥さんの影響が強いですね(笑) 

お店をやろうと決めて、何からはじめたんですか。 

 

越湖:正直、何から手をつければいいかわからなかったので、とりあえず物件を探しました。 

 

福田:物件探しをする際に、重視したポイントはなんでしょうか。 

 

越湖:まず一番は「球場に近い」ことですね(笑) 

(越湖さんは熱心な阪神タイガースのファン。店の名前にもそれが表れていますね) 

それは冗談ですが、オフィスと住宅のバランスがよく高台の場所を探していました。 

 

福田:高台? 

住居探しの時にはよく聞きますが、あまり店の立地を決めるのに高台かどうかを気にする人っていませんよね。 

そもそも、四谷って谷がつくけど高台なんですか。 

 

越湖:この辺り(三栄町)は実は高台なんですよ。高台は大雨や地震などの災害に強いと思って。

路面店で焙煎機を置くのでそういったことを考えて。 

歩きまくって、地元の人からもいろいろ昔の話を聞きました。 

この物件が決まるまでに1年くらいかかりましたね。 

 

福田:最初から四谷というのは決めていたんですか? 

 

越湖:いえ、四谷は有力な候補でしたけど、他のところでも探しましたよ。 

23区内のいたるところで。 

 

福田:それはネットで探すんですか。 

 

越湖:ネットももちろんですが、いいなと思ったら現地に行って、とにかく足で探しました。 

どんな人が住んでいるんだろうとか、ゴミの出し方はどうかなとか。街との相性を肌で感じるというか。 

やっぱり直に歩いて、自分の目で見るというが一番大事ですよね。 

 

福田:四谷以外で、どこかいい街はありましたか。 

 

越湖:上野の稲荷町、ここは良かったですね。 

ビジネス街が近い、下町感のある住宅街。外国人観光客も多いし。 

近くに綺麗な公園があって子供と猫がいる感じ。 

四谷に近い雰囲気を感じたかもしれません。 

 

 

 

 

福田:物件探し以外に、開業するにあたって大変だったことってありますか。 

 

越湖:全部が大変です。 

そもそも未知の事なんで、何からどういう順番で進めて行けばいいのかがわからない。 

目指すゴールを細かく分解してタスクに落とし込むことができないんですよ。 

 そういうことを整理できるといいなと思って「小さなお店のはじめかたゼミ」に参加しようと思ったんです。 

 

福田:確かに、やらないといけないことがいっぱいありますよね。 

その中で特に悩んだことってありますか。 

 

越湖:やっぱりお金ですね。 

政策金融公庫から融資を受けたのですが、正式に融資の申請をするには物件が決まってないといけない。 

でも物件が決まってからだと、実際に融資が下りるまでに結構時間がかかる。 

政策金融公庫の担当の方にいろいろ相談しましたね。 

 

福田:お金の問題。これは開業時の大きなポイントですよね。 

でもゼミで話を聞いていた限りだと、越湖さんはかなりうまく政策金融公庫と付き合っているなと思っていました。 

 

越湖:うーん、何度も相談しながら進めましたが。それでも難しかったです。 

ケースバイケースな部分もかなりあって。 

 

福田:お金以外にも、開業するにあたって大変だったことってありますか。 

 

越湖:もう全部ですね(笑) 

いくら準備しても、絶対に穴があるというか。 

そもそも、何か必要で、今何が足りていないのかわからない。 

既に開業している方が「アレは大丈夫?」と助言してくれて、「はっ!」と。 

経験者だからこそのアドバイスをもらえたのが本当にありがたかったです。 

お店の完成イメージも固まりきっていないので、業者さんへも曖昧な依頼になって、すり合わせがうまくいかない、っていうこともありましたね。 

 

福田:細かいこととか、いろいろありますよね。 

余裕を持っておくということが大切でしょうか。お金の面でも、時間の面でも。 

 

越湖:本当に余裕が大切だと思います。特に時間。 

絶対に予想外のことがある!という前提でスケジュールを組んでトラブルを待ち構えるくらいの余裕がないと混乱しちゃう。 

 

 

 

福田:今度は、実際に開業してからどうだったかということをお聞きしたいと思います。 

開業する前に思っていたことと実際に違ったことなどありますか。 

 

越湖:接客などに関しては経験もあったし、イメージできていたことが多かったのです。 

ただ事務処理やお金の事、発注や営業活動など「やらなきゃいけない事」が毎日山ほどあって時間が足りない! 

体力にも結構自信があったのですが、もうへとへと(笑) 

もともと僕が得意ではない事なので、疲れが倍増するんですよね。 

 

福田:雑用というか、本業以外の作業がたくさんありますよね。特に飲食は。

それに対する時間やエネルギーがどれくらいかかるか、なかなかやってみないとわかりませんよね。

 

越湖:あと、毎日毎日、細かく豆の状態を見ながら何十杯もドリップして、豆をピックして焙煎して。 

すごく好きな作業も長時間、真正面からコーヒーと向き合うってこんなに気力も体力も消耗するのかって気づきました。 

毎日状態の変わるコーヒー豆を、自分で感じて、常に一定基準以上の状態で提供する大変さを痛感しています。 

自分が体も心も健康でないと、お客様に言い気持ちを提供できないので、これまで以上に健康を保つよう心掛けています。 

自営業は体が資本って本当ですね! 

 

 福田:最後に、今後このお店をどうしていきたいかがあれば教えてください。 

 

越湖:漠然とした回答になりますが、まずはお客様に安心感を与えられるお店に進化させていきたいです。 

ここに来れば美味しいコーヒーがあるっていう安心感や、お店に来れば僕がいるよっていう安心感とか(笑) 

心を豊かにするエッセンスを提供するお店になりたいなぁって思います。 

豆売りがメインですが、お店で買った豆を自宅でも最大限美味しく飲んでもらいたいので 

ドリップの教室をやりたいと思っています。 

 

お菓子の教室もやりたいですし、作家さんの展示もやりたいし、ワークショップもやりたいです。また今は想像できていないものもやりたい。やりたい事がいっぱいある。 

あ、あと奥さんをTORANOKOの専任に据えたいです。ずっと奥さんにいてもらうの。 

で、どさどさお菓子を作ってもらいたい(笑) 

 

 福田:最後もやっぱり奥さん(笑) 

今度来た時は奥さんにお会いできるのを楽しみにしています。 

今日はありがとうございました。 

 

 

 

ちょうどインタビューが終わった後、常連さんらしきお年寄りが来店し、コーヒー豆を購入していきました。 

いかにも品のいいご隠居さんという雰囲気。会話もとても親しみがこもっていて、お客さんといい関係が気付けているのがよくわかりました。 

やりたいことがいろいろあるという越湖さん、これからどんなお店になっていくのか、楽しみにしています。

 

 

お店情報 

TORANOKO  ROASTED COFFEE&SWEETS 

新宿区三栄町18番地 寿ビル1階 

03-6670-5532 

Instagram:@toranoko1521 

Twitter:@toranokocoffee 

 

 

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小さなお店のはじめかたゼミ 第9期